丸めた背に突き刺して



「はいみんなー。なんか食べたい京都土産ある?」
「生八ツ橋!」
「わらびもち!」
「阿闍梨餅」
「抹茶のバームクーヘン」
「しゃけ!」
「了解!よし、送信っと」

口々に出てきた物を打ち込み送ると、すぐに既読になり任せとけ!という暑苦しいスタンプが送られてきた。

「え、名前さん京都行くんですか」
「違う違う。京都からお土産が来るの」
「?」

不思議そうな顔をする野薔薇ちゃんにスマホの画面を見せると、しばらく固まったあと「た、大変ですね」と憐れみの視線を向けられた。

京都校の東堂葵は私のことを彼女(マイスイートハニー)だと思っている。

いったい、いつどのタイミングでそんなやりとりがあったのか全く覚えていないんだけれど勝手にどこかから私の連絡先を入手して今日は何を食べた、何をした、なんて逐一どうでもいいメッセージを送ってくる。本当にまるで恋人みたいだ。今回は、アイドルの握手会でこちらに来るらしく顔を見に寄ると連絡があった。

「確かに名前さん背が高くてスタイルいいですもんね…」
「あぁ、確かに。あいつケツとタッパがデカイ女がタイプって言ってたもんな……」

虎杖くんも話に加わり、東堂のことを思い出したのかげんなりとした表情を浮かべた。

「名前がはっきり言わねぇから、向こうも勘違いすんだろ。名前もほんとは好きなんじゃねーの?」
「俺もそう思う」
「すじこ」
「……」

どうなんだろう。よくわかんないや。
確かに最初は迷惑でしかなかったけれど、毎日数十通と送られてくるメッセージが少ないと何かあったのかなって思ってしまうし、今回だって握手会のついでかよとどこかで思っている私がいた。


昔から、他の子より頭2つ分視線が高かった。中学に入って周りの男の子達の身長がぐんぐんと伸びてきて、小学生の頃よりは目立たなくなったけれど依然として女の子としては大きすぎるこの身長が嫌だった。いつしか、周りの目を気にして少し背中を丸めて歩く癖がついていた。

東堂に初めて会ったのは入学して間もない頃、学長に付いて来ていたらしい彼は目があった瞬間、少し距離があったはずなのにすぐ目の前まで来ていた。え、怖っと思っているとぎゅうっといきなり抱きしめられて声にならない悲鳴が漏れる。なんか凄いいい匂いするし……。

「ひっ」
「やっと見つけた……。マイスイートハニー!!」

人違いだと説明しようにも抱きしめられる力が強くて、声が上手く出ない。見上げて顔を見ながら訴えるも、うっとりした表情を浮かべ全く見えてない様子だ。この人、凄く大きいな……。五条先生ぐらいあるかな……?

「ん……?あぁ、すまんすまん」
「っ、はぁ……。いきなりっ、何なんですかっ!! 」

苦しさに耐えきれなくなって、胸を2〜3度叩くと気が付いて力を緩めてくれた。いや、そういう事じゃないんだけどと思ったけれど今度はジッと私を見つめるその視線に気付いて、それどころじゃなくなった。
え、何この雰囲気!段々顔近付いてきてない!?

「ちょ、え、やっ、」

身を捩ってもびくともしない身体に慌てていると、遠くから京都校の人達の東堂を呼ぶ声が聞こえてホッとした。

「チッ、無粋な奴らめ……時間がないから一言だけ。いいか、マイスイートハニー」
「……」
「────背筋を伸ばして歩け」

どうしてか、さっきまでの馬鹿力とは裏腹にそっと背中に優しく触れた手が忘れられない。



「名前は洒落た店を知っているんだな」

握手会まであと2時間ほどあるという東堂と会い、適当にその辺のコーヒーショップに入る。この後、高田ちゃんとやらに会うらしい彼はどこか浮かれた様子だった。この胸の痛みは何だろう。高田ちゃんも背が高いらしい…。薄々思ってはいたけれど、彼は身長が高い女ならば誰でもいいんじゃないだろうか?

「東堂は……。私のどこが好きなの」
「無論。全てだ、理屈じゃない」

ぶつけた疑問に、1つも考える素振りを見せずに返ってきた言葉。どくりと心臓が動く。お願いだから、そんな真っ直ぐな瞳で見つめないで。

「……身長だけじゃないの」
「それも含めて名前という人間だろう」
「……」

あぁ、何かもう。どうでもいいや。
私、この人の事が好きだ。

「ねぇ、東堂」
「なんだ」
「……今度は、私にだけ会いに来て」

「握手会のついでじゃなくてさ」という言葉は隠してそう伝えると、「あぁ、勿論だ」と彼は満足気に頷いた。

あなたのおかげで自分の嫌いだった所が、好きになれる気がするよ。




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